C01 質感情報の脳内表現と利用のメカニズム
C01-1 質感認知の初期脳メカニズム
研究代表者 | 大澤 五住 (大阪大学大学院生命機能研究科・教授) |
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研究分担者 | 佐々木 耕太(大阪大学大学院生命機能研究科・特任助教) | ![]() |
連携研究者 | 田中 宏喜(大阪大学・大学院生命機能研究科・助教) |
研究内容
本計画研究の代表者はこれまでに、ステレオ立体視に関する初期視覚野メカニズムの解明、時空間や局率を含む高次元特徴空間におけるマルチニューロン記録に適した視覚野細胞特性の計測法開発等により、初期視覚野機能の解明を進めてきた。本計画研究では以下の2点に特に焦点をあてる。
1. 物体の「形状パラメータ」と「質感パラメータ」の分離を目指す高次元特性計測法の開発
初期視覚野細胞は、形状の基本パラメータであるエッジなどの方位と空間周波数(サイズ)、局率とその向き、さらに中高次領野の細胞ではそれらの組み合わせに刺激選択性を持っている。これらの「形状パラメータ」に対する選択性から真の「質感パラメータ」選択性を分離することが、本計画研究のみならず、領域全体の一つの重要な目標である。本研究室で近年開発した「局所周波数領域逆相関法(LSRC)」やその他の刺激変数を用いた類似手法は、このような高次元刺激パラメータ空間を効率的に探索する有力なアプローチである。そこで、質感パラメータを含む高次激空間において同様のアプローチを適用することにより、B01, C01、公募チームで共通に利用できる計測手法を開発する。
2. 質感知覚における単眼および両眼情報処理機構の解明
光沢、テクスチャー等の質感知覚は単眼画像からも得られるが、両眼からの情報が統合された場合に増強されることが知られている。質感豊かな物体が生む左右画像のズレ(両眼視差)は非常に複雑であり、質感知覚において重要な手掛かりになっていると考えられる。質感パラメータと刺激が含む複合的奥行を実験的に制御した、一連の単眼刺激と両眼刺激に対する個々の視覚野細胞の反応を調べることにより、単眼情報による質感知覚のメカニズムだけでなく、質感に関わる両眼情報処理機構の解明が期待される。これらの実験を初期視覚野(V1,V2)から開始し、公募班の研究者を含む他の研究者との協力により、他の高次領野でも研究を実施する。
C01-2 質感認知の高次脳メカニズム
研究代表者 | 小松 英彦 (自然科学研究機構 生理学研究所・教授) |
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研究分担者 |
一戸 紀孝(国立精神・神経医療研究センター神経研究所・部長) |
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郷田 直一(自然科学研究機構 生理学研究所・助教) | ![]() |
研究内容
質感認知は刺激にもとづいて素材を分類する機能と、特定の質(例えば光沢)についてその程度を区別する機能が含まれる。本計画研究ではそれぞれの機能に関係する情報の表現について主に視覚前野および視覚連合野において生理学的に調べる。質感は高次元の情報であり、どのような画像特徴が重要であるかも多くの場合十分分かっていないが、A01班、B01班と共同で質感認知に関係する重要な情報を絞りこみ、それにもとづいて作成した刺激を用いて実験を進める。実験ではヒトとニホンザルで機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた実験を行い、特定の質感に選択的に応答する脳部位のマッピングや、脳活動から素材の種類の読み出しを最先端の解析手法を用いて進める。またニホンザルではfMRIによる脳活動計測行うと共に、単一ニューロン活動記録により、ニューロンレベルでの情報表現の解明を進め、質感認知に影響する物体の三次元形状、照明環境、および物体の反射特性のそれぞれの要素がニューロンの活動にどのように関係しているかを調べる。また質感認知に関わる情報を表現する領野がどのようなネットワークを作っているかを神経解剖学的手法を用いて明らかにする。また脳溝がほとんどないマーモセットの利点を生かして、質感認知に関わる情報表現のネットワークの in vivo での可視化を図り、その各ポイントからの多点電気活動記録により、質感認知ネットワークの情報処理ダイナミクスを探る研究も並行して進める。
C01-3 質感認知に関わる感性・情動脳活動
研究代表者 | 本田 学 (国立精神・神経医療研究センター神経研究所・部長) |
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研究内容
脳に入力される感覚情報は、視覚・聴覚といった感覚モダリティごとに固有の分析が行われる一方、全感覚モダリティの情報が感性・情動神経系で統合され、快・不快や美醜などの価値判断が行われる。質感認知と感性・情動反応との間には密接な関係が存在するにもかかわらず、現在急速に始められている質感認知研究の大部分は、各感覚モダリティ固有の情報処理を対象としており、質感認知に対する感性・情動神経系からのアプローチは大きな空白地帯となっている。その一因として、被験者を強く拘束し不快感を強いる従来の大型医用画像装置のストレスフルな計測環境が、質感認知から繊細な感性反応を生み出す感性・情動神経系(報酬系)の活動の検出を困難にしていることが挙げられる。
研究代表者らはこれまでに、人類の遺伝子が形成された有力な候補である熱帯雨林の自然環境音や、さまざまな文化圏の楽器演奏音などが、人間の可聴域上限の20kHzをはるかにこえミリ秒単位で複雑に変化する超高周波成分を豊富に含むことを見出すとともに、こうした超高周波成分を含む音は、それを含まない音に比較して、報酬系神経ネットワークを強く活性化し、音響情報の質感認知に伴う感性反応(感性的質感認知)を統計的有意に向上させることを発見した。同時に、視覚情報についても視覚弁別能を超えた高精細映像が報酬系を活性化し、感性的質感認知を向上することを示した。
本研究では、感性的質感認知に最適化した脳機能計測システムを構築し、感覚情報の質感認知と感性・情動神経系、特に報酬系との双方向的関連性を明らかにする。加えて、感性的質感認知に関わる報酬系神経ネットワークの活性化に必要な感覚情報の信号構造を明らかにする。