B01 質感認知に関わる感覚情報の特徴と処理様式

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B01 色の見えのモードと質感との関連およびその神経基盤

研究代表者 栗木 一郎
(東北大学電気通信研究所・准教授)

研究内容

色の見えのモードとは、同じ色光であっても表示媒体や呈示環境によって異なって見える事を示した概念である。例えば、開口色(光源色)モードでは茶や灰の見え方は存在せず、それらはオレンジか白に見える。それは茶や灰のライトは存在しない事からも明らかで、茶や灰は物体表面の属性として見える時(表面色モード)に知覚しうる。一方モードの概念は、質感によって色の見えが変わる事との関連を示唆している。本研究課題では,モードの違いと質感の違いとの相同性・相似性を心理物理学的に調べることを当初の目的とする。また、特徴的な相同性・相似性の見られた条件を用いて脳機能計測を行い、色の見えのモードと質感の神経基盤についても示唆を得る事を目標とする。

B01 疎表現に基づく質感と3次元形状の同時推定

研究代表者 酒井 宏
(筑波大学システム情報系情報工学域・教授)

研究内容

視覚系は、網膜に投影された像から、質感を知覚すると同時に3次元形状を再構成する。網膜像は光源・物体の反射特性・物体形状から決まるが、像から未知の3者を推定することは一般に困難である。しかし視覚系は、この不良設定問題をリアルタイムに解いている。本研究では、この根源的な問題に計算論的・心理物理学的にアプローチする。まず、質感の統計的特徴を利用して、「基本的な質感」とも言えるBRDFの疎表現基底関数を求め、これが実際に皮質で利用されていることを心理物理実験によって検討する。次に、この疎表現を手掛かりに、質感と3次元形状を同時推定する皮質機構を理解することを試みる。

B01 視覚と触覚による材質感認知メカニズムをオノマトペの音象徴性から探る

研究代表者 坂本 真樹
(電気通信大学情報理工学研究科・准教授)

研究内容

視覚における材質感評価と音韻の関係を実験により特定し、第1期公募研究で明らかにした触覚における材質感評価とオノマトペの音韻の関係と統合し、材質感評価における視覚と触覚の関係性を明らかにする。「きらきらして、ぺたぺたしていて、つるつるな素材がほしい」に対応する材質を推薦できるシステムを構築する。さらに、実物と模造(金属、真珠、漆など)から想起されるオノマトペの表す質感情報を比較することで、真贋判定に応用する。

B01 集合知を用いた質感認知と物体認知の関係に関する大規模分析

研究代表者 柳井 啓司
(電気通信大学大学院情報理工学研究科・准教授)

研究内容

Web上には多種多様な質感に関する「集合知」が存在する。本研究では、特に質感に関係するテキスト情報が付与されたWeb 上の大量の画像を用いて、質感表現に対応する言葉(主に形容詞)と画像の関係の分析を最新の画像認識手法とデータマイニング手法を用いて行うことを目的とする。具体的には次の3点について、主に研究を行う。
(1)様々な画像特徴量を用いて、画像認識によって認識可能な質感表現を自動的に検出する。
(2)質感表現を多言語に翻訳し、質感表現と画像特徴の関係が言語によって変化するかどうか分析・調査する。
(3)質感表現と物体カテゴリ(主に名詞)の組み合わせについて着目し、物体カテゴリ毎に画像から認識可能である質感表現と、認識困難な質感表現を分析し、質感認知と物体認知の依存性について考察を行う。

B01 質感認知における状態変化と材質の違いを区別するメカニズムの解明

研究代表者 岡嶋 克典
(横浜国立大学大学院環境情報研究院・准教授)

研究内容

私たちは1枚の2次元画像から、そこに存在する立体形状や色と同時に、物体の材質や状態も瞬時に認識できる。本研究では、「鮮度感」、「風化度合い」、「肌の透明感」等の様々な物体の「状態」を認知する高次質感認知メカニズムを解明するとともに、「材質」を特定する認知メカニズムも考慮することで、状態と材質の認知における相互作用を検討する。また、物体の状態を非接触に自動判定可能な質感認知システムを開発するとともに、画像処理によって「材質感」を調整し、任意の「状態」を有する画像に変換・合成する技術を確立する。さらにこの技術を応用し、クロスモーダルな質感の相互作用についても検討する。

B01 触感空間と皮膚変形量空間の多次元対応を用いた質的表現からの触感生成技術

研究代表者 岡本 正吾
(名古屋大学大学院工学研究科・助教)

研究内容

触感は複数の独立因子から成る多次元空間で表現される。この触感空間と対応する物理量空間を特定することは、触感を理解し、工学的再生技術につなげる鍵となる。本研究は、素材と人の指の相互作用によって生じる指腹の皮膚変形に着目する。素材をなぞったときの皮膚変形の時系列情報を触感に影響する物理量空間の基軸と捉えれば、触感に影響する物理量と多次元の触感空間を対応付けることが可能となる。空間の対応付けを成功させ、触感に対応する皮膚変形を特定し、質的な表現(例. 粗い、布らしい)を多重的に組み合わせて、触感ディスプレイにて再生すること技術を構築する。

B01 質感の記憶―表象構造と精度の定量化と神経基盤の解明

研究代表者 齋木 潤
(京都大学大学院人間環境学研究科・教授)

研究内容

我々は眼前の物体の質感 は詳細に知覚できるのに、過去に経験した質感を表現することは難しい。この乖離は質感の記憶の乏しさによるのか、記憶を表出する際の 限界なのか、未だに不明である。従来、質感のような知覚的詳細は記憶に残らないとされてきたが、近年、知覚的詳細が長期記憶に残ると いう報告がある。眼前にない物体の質感の記憶を精密に測定するために、視覚性短期記憶研究の手法と、質感研究で培われてきた質感情報 をパラメトリックに操作する諸技法を統合する。質感認知に関する知覚と感性的質感の表出を媒介する記憶の問題は「ミッシングリンク」 となっていたが、この2つを架橋することにより、質感認知のより総合的な理解を目指す。

B01 肌質感処理に基づく異性魅力評価メカニズムの解明

研究代表者 土居 裕和
(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・講師)

研究内容

ヒトを対象とした進化心理学的研究により、形質の適応性・繁殖力が高い個体ほど、異性の目に魅力的と映る身体・顔形態を有することが、明らかにされている。これを踏まえると、異性の肌質感は形質の適応性・繁殖力を反映するシグナルとして機能しており、顔の肌質感に基づいた異性の魅力評価・配偶者選択が行われている可能性が考えられる。本研究では、心理物理学実験・画像処理・脳機能計測を包括した学際的アプローチにより、同予測を実験的に検証することで、肌質感に基づく異性魅力評価メカニズムを解明することを目的とする。

B01 質感知覚の成立過程―言語獲得前後の乳幼児を対象にした発達的検討

研究代表者 山口 真美
(中央大学文学部心理学専攻・教授)

研究内容

乳児における質感知覚の発達を、その行動と脳計測から検討する。
これまで本研究室の研究では、様々な奥行き手がかりを超えて物体を表象として形成できるのが生後6ヶ月以降であることを示してきた。陰影知覚の成立後の乳幼児を対象として様々なモダリティを統合して環境内の物体表象などとして形成する過程を解明する研究と、発達初期にあると思われる質感知覚の形成過程を検討する研究を行っていく。

B01 食品における多次元的質感視知覚の解明

研究代表者 和田 有史
(農業食品産業技術総合研究機構食品総合研究所・主任研究員)

研究内容

食品の視覚的質感は、鮮度、損傷、テクスチャーなど多次元的に評価される。これらの品質は目利きや消費者によって主観的に評価され、商品の市場価値に影響を与える。しかし、食品の機器測定によって人間の知覚に対応した情報を取得するのは困難である。そこで本研究では、実験心理学的な知見が測定技術開発に有効なシーズとなりうる鮮度の個体差・損傷・物性の視知覚に焦点を当て、食品の質感視知覚メカニズムに多次元的にアプローチする。

B01 質感画像と脳活動データから質感パラメータを自動抽出する手法の開発

研究代表者 下川 丈明
(国際電気通信基礎技術研究所脳情報通信総合研究所・研究員)

研究内容

質感は豊かな感覚を我々の生活の中に与えてくれる。しかしそれらを研究対象にしようとした際、それをどのような指標でとらえてよいかは難しい。質感をトップダウン的に定義することが難しい場合、ボトムアップ的に客観的な指標を導出できれば有用であると考えられる。我々は、質感画像とそれに応答する脳活動データの共通部分を抽出することで、質感を特徴付けるパラメータ群をデータから導出するための手法開発を行う。これら2つのデータの関係性を記述するには非線形な変換が必要とされ、また画像データは高次元であるため適切に圧縮する必要がある。これらの困難を解決するための解析技術の向上に取り組む。