C01 質感情報の脳内表現と利用のメカニズム

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C01 多感覚統合による質感認知の脳神経メカニズムに関する臨床的研究

研究代表者 鈴木 匡子
(山形大学大学院医学系研究科・教授)

研究内容

質感は手触り(触覚)や見ため(視覚)など複数の感覚モダリティーを通して学習される。これまでの研究で、個々の感覚モダリティーにおける質感の神経基盤は徐々に明らかになってきた。しかし、多感覚モダリティーの統合を要する質感認知の脳内機構については未だ不明の点が多く、特にヒトの損傷脳においての検討はこれまでになされていない。本研究では損傷脳において触覚および視覚の両面から質感認知機能を測定し、病巣部位との関連の検討から、ヒトの多感覚性質感認知の神経基盤を探ることを目ざしている。

C01 嗅覚系をモデル系とした感性的質感認知の神経回路メカニズムの解明

研究代表者 眞部 寛之
(東京大学大学院医学系研究科・助教)

研究内容

質感は、感覚入力が感覚情報として処理されるだけでなく、感覚入力によって惹起される情動や感情などの感覚も合わさることによって作られる。本研究は、嗅覚系をモデル系として、感覚情報がどのように情動に変換されるのかの神経回路メカニズムを明らかにすることを足掛かりとして質感の神経回路メカニズムに迫ることを大きな目的とする。具体的には、情動行動に関わると推察される腹側線条体の一部で嗅皮質の一部でもある嗅結節に焦点を当て、嗅結節の特定の亜領域の神経活動が特定の情動行動と結びついているという仮説を検証し、嗅覚入力からどのような神経回路メカニズムによって情動が生まれるのかの理解を目指す。

C01 音の質感と情動情報の神経基盤

研究代表者 高橋 宏知
(東京大学先端科学技術研究センター・教授)

研究内容

任意の純音を組み合わせて和音を作ると、豊かな質感が生まれる。さらに、長調や短調といった調性のように、特定の周波数構造の音には情動的な質感も生じる。本研究では、音の質感や情動情報に依存する聴皮質活動に関して、(ⅰ)聴皮質・視床の相互作用に注目して生成機序を解明し、(ⅱ)聴皮質(聴覚系)と扁桃体(情動系)の相互作用を検証する。そのうえで、(ⅲ)音の質感や情動情報の神経活動指標に基づいて音を作り、その質感や情動情報の神経科学的理解を深める。本研究は、感覚系と情動系の相互作用に注目して、質感情報の脳内表現を考察する。

C01 アクティヴタッチによる質感知覚における視覚情報の影響

研究代表者 勝山 成美
(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・助教)

研究内容

我々が手や指を能動的に動かして物体の形や質感を知覚することをアクティヴタッチという。我々はこれまでに、アクティヴタッチによる質感知覚は、指先からの体性感覚入力だけでなく、「何に触れているか」という視覚情報の影響を受けることを明らかにした。この成果をふまえ、本研究では異種感覚を統合して質感が成立する脳内メカニズムを、機能的MRI実験などを通して明らかにしてゆきたい。

C01 皮質脳波法による生き物らしい質感の脳内表現の研究

研究代表者 川嵜 圭祐
(新潟大学医学部生理学第一・助教)

研究内容

視覚に基づいた抽象的なカテゴリーはどのような神経メカニズムによって実現されているのか?ヒトは物体に”生き物らしさ”を感じ(アニマシー知覚)て、物体を動物と非動物のカテゴリーに大別できる。アニマシー知覚は多くの心理学的、神経科学的研究が行われ、知覚に重要な視覚的物理パラメータや、知覚に関連する脳領域が示唆されてきた。本研究では、概念的な質感の動物モデルとしてサルのアニマシー知覚を行動学的、神経科学的に検証する。
記号を使った動物・非動物カテゴリ分け課題を行動指標に用いて、同時に皮質脳波法により高時空間分解で広範囲の脳活動を記録することでアニマシー知覚の神経基盤の解明に取り組む。

C01 陰影と光沢が物体色認知へ与える影響と下側頭皮質の役割

研究代表者 鯉田 孝和
(豊橋技術科学大学エレクトロニクス先端融合研究所・テニュアトラック准教授)

研究内容

色の見えが一様刺激と物体画像とで同じか異なるのかを確かめるために、ヒトを対象とした色名呼称実験と、サル下側頭皮質のニューロン応答記録実験を行う。物体画像は写真撮影した粘土球であり、陰影成分と光沢成分を独立に操作し色付けする。一様画像は球と同一シルエットの一様面であり、輝度は複数レベル用意する。これらの視覚刺激は自作した高コントラストディスプレイを用いて呈示する。実験では、陰影、光沢、一様の三条件間での違いを導く。特に生理実験では細胞の応答強度に変化があるのか、最適応答色に変化が生じるか、また、細胞集団で応答変化に一貫した傾向があるのかどうかを明らかにする。

 C01 触覚的質感視の脳イメージング研究

研究代表者 山本 洋紀
(京都大学大学院人間環境学研究科・助教)

研究内容

ヒトは見ただけで、モノの光沢など視覚による素材感だけでなく、柔らかさや滑らかさといった、触った感じも瞬時にわかる。加えて、心地いいといった情動も喚起される。本研究では、ヒトのこの能力を触覚的質感視と名付け、その脳過程の解明を目的とする。触覚的質感視は、視覚系だけではなく、触覚と情動も含め3者の協調的な働きによって実現されていると我々は考えている。例えば、シルクを見た時の滑らかな感じは、触覚系と情動系が実際に触った時のように働くからこそ、生じるのではないだろうか?本研究では、この視覚・触覚・情動協働仮説を、実物の布を刺激とした脳イメージングによって検証することで、触覚的質感視の脳過程の解明を目指す。

C01 質感の変化による選好性の変化と前頭葉眼窩部の役割

研究代表者 船橋 新太郎
(京都大学こころの未来研究センター・教授)

研究内容

同じ絵画や彫刻でも、光の当て方や写真の撮り方の違いでその質感に微妙な変化が生じ、その結果、見た時の印象や好みが違ってくることがあります。この研究では、写真に写されている物の質感の変化が選好性にどのような変化を与えるか、どのような刺激パラメータが選好性に影響を与えるかと、このような選好性の変化を生じるメカニズムに注目して研究を行います。同一の刺激の光学的特徴を人為的に操作することによって刺激の質感を変化させ、この変化がヒトや動物の選好性に与える効果を行動学的に検討すると同時に、その効果に対応する前頭葉眼窩部の活動の変化を検討し、質感の違いが選好性の違いを生じる神経メカニズムを考察します。

C01 視覚的物体認識のための質感情報処理メカニズムの解明

研究代表者 田村 弘
(大阪大学大学院生命機能研究科・准教授)

研究内容

複雑でダイナミックに変化する自然な視覚環境下において、物体表面の色や肌理・模様などの視覚特徴は物体認識の有効な手がかりとなります。本研究では、物体認識に重要である腹側視覚経路を対象として、マルチプローブ・マルチニューロン計測手法を用いて、物体表面特徴に関する視覚情報の脳内表現様式とその変換過程を明らかにします。さらに、物体認識に利用できる様々な視覚情報が統合されて、物体概念の脳内表現が形成される過程の解明を目指します。

C01 自然画像中の動きの解析の神経基盤

研究代表者 宇賀 貴紀
(順天堂大学医学部生理学第一講座・先任准教授)

研究内容

現実世界での脳機能を理解するには現実世界に即した刺激を用いた研究が必要である。本研究では自然画像を用いた運動視研究をベースに、質感脳情報処理の理解を目指す。従来の運動視の研究では、時空間周波数や方位の統合により正しい運動方向や速度が検出できるとされている。しかし、この説は時空間周波数成分や方位成分が限られた人工的な視覚刺激に依存した結論である。本研究では、自然界での運動視メカニズムに迫るため、自然画像中の動きが大脳皮質MT野やV1で正しく表現されているのか、正しく表現されているとしたら、どのような計算過程で行われているのかを検証する。

C01 多次元生体信号記録法による手触りの神経機構の解明

研究代表者 西村 幸男
(生理学研究所発達生理学研究系・准教授)

研究内容

体性感覚による物体認知の研究は、末梢や大脳皮質の体性感覚野からの単一神経活動記録により、その神経機構が議論されてきた。一方、“手触り”の認知には、単に受動的に触れるだけでなく、手を能動的に動かすことにより単一神経細胞の受容野を跨いだ複数の受容器によって表現される。このように、“手触り”は多数の適刺激・受容野の異なるニューロン群の時空間パターンにより表現されているが、多数・多領域のニューロンによる“手触り”の脳内表現は未だ不明である。本研究では、末梢体性感覚一次ニューロン群の活動記録と広域大脳皮質からの多チャンネルECoG記録により、多次元生体信号記録法を用いた “手触り”の質感認知機序の理解を目指す。

C01 スキンシップが惹起する情動の脳認知科学的メカニズム

研究代表者 北田 亮
(生理学研究所大脳皮質機能研究系・助教)

研究内容

親しい他者との接触(スキンシップ)は快情動を引き起こし、ヒトの心の発達や健康に重要な役割を果たす。スキンシップを構成する重要な要因として肌の質感が考えられる。肌の質感の役割を理解するには、脳が素材から温かさ・柔らさ・滑らかさをどのように抽出し、統合させ、情動を惹起させるのかについて明らかにする必要がある。この点を念頭に心理物理学実験と脳機能イメージング法を活用して、①心地よい触感を引き起こす錯覚(ベルベット錯触)の神経基盤、 ②素材の弾性を介した弁別的触覚と感情的触覚の関係性、 ③素材情報の視触覚統合に関与する神経基盤、を明らかにする。

C01 視覚による正の情動誘起の神経機構

研究代表者 南本 敬史
(放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター・チームリーダー)

研究内容

様々な感覚をもとに「好ましい」というような正の感情を誘起する脳システムは、価値判断の神経回路と異なることが示されている。このような正の感情について、特に視覚がどのような神経回路を経由して、どのような神経活動により正の情動が誘起されるか、詳しい神経メカニズムは不明である。本研究は、視覚認知から情動反応が誘起される神経機構の解明を目的とし、これまで申請者らが培ったサル類の音声的情動反応の解析法を基に、神経生理、解剖学的研究を組み合わせ、「好ましい」という正の情動にかかわる神経回路、神経活動を特定する。本研究は感性的質感認知、つまり知覚から情動が生じる仕組みの理解に向けた領域の推進に大きく貢献することが期待される。