文部科学省科学研究費補助金 学術変革領域研究(A) 「実世界の奥深い質感情報の分析と生成」


D02-1 物体の実在感(リアリティ)と知覚的ノイズの関係


栗木 一郎 埼玉大学

古い白黒画像が着色されると,なぜリアリティを感じるのか?AIによる白黒画像への自然な着色は,最近流行の研究テーマである.古い白黒動画に着色したものを見ると,大いにリアリティが増し,つい最近の出来事のように感じるのはなぜか?リアリティにおける着色の意義は何か?
視覚的な「リアリティの成立においては,然るべきノイズの存在が不可欠」なのではないか,という仮説を心理物理学的手法と脳機能計測による手法を組み合わせて研究する.本研究で「ノイズ」とは最優先の視覚的課題に無関係な視覚特徴を指している.自然画像のなかで物体の形を認識する場合を考える.自然画像では,物体には色が付着されており,動いている場合もある.計算機によって画像を処理する場合,色も動きも無い画像を使った方が高精度な結果に結びつく.つまり計算機では最初からノイズが無い状態が理想だが,脳はノイズ除去のプロセスを伴わないとリアリティを感じないのではないか.写真フィルムの傷のように実物には存在しないノイズはリアリティに寄与せず,「然るべきノイズ」が存在することがリアリティの本質であると思われる.この仮説を,心理物理学的手法および脳機能計測を併用した実験を通じて検証していく.