D02-8 アンビエント音響としての謡曲における幽玄の理解
木谷 俊介
北陸先端科学技術大学院大学
本研究の目的は、spectro-temporal modulation(STM, スペクトル・時間変調)に着目し、ヒトが幽玄を知覚する謡曲特有の物理特性を明らかにすることである。世阿弥は「能では幽玄であることが第一に大事である」(花鏡,1424)と述べている。奥深くはかり知れない様子を表す幽玄について、謡曲に含まれるヒトの発声だけに着目するのではなく、舞台空間および能面によるアンビエントの変化にも着目する。謡曲の幽玄に関わるSTM情報を明らかにすることで、幽玄を生じさせるスペクトル変調成分(声帯および声道の動きと対応)、および時間変調成分(アンビエントの変化に対応)を示す。また、STM情報を変化させたときに幽玄の知覚がどのように変わるかを知覚実験によって調べる。幽玄という言葉は、まさに日本の伝統的な深奥質感のことである。音がもたらす、奥深くはかり知れない様を本研究課題の対象とすることにより当該研究領域の推進に貢献する。