東北大学 電気通信研究所
栗木 一郎
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D01-1 質感知覚における輝度ヒストグラム部分情報と空間サイクル数の寄与
研究代表者:栗木 一郎(東北大学 電気通信研究所 )
東北大学 電気通信研究所
栗木 一郎
山形大学大学院 理工学研究科 一関工業高等専門学校 東北大学
情報科学専攻 制御情報工学科 学際科学フロンティア研究所
永井 岳大 佐藤 智治 金子 沙永
質感の知覚に関連する画像情報として輝度ヒストグラム中で高輝度成分に含まれるハイライト(光沢)がある.しかし光沢は表面の平滑感や照明光の知覚に寄与するが,布地や樹皮,物体の表皮などの質感知覚には寄与しない.これらの素材には,繊維の重なりや物体の境界面で生じる多重反射による自然の暗部があり,輝度ヒストグラムの低輝度成分が質感知覚に大きく寄与していると考えられる.しかし,その役割については光沢に比べて研究が進んでいない.本研究課題では主に,低輝度成分が質感知覚に及ぼす影響について,高ダイナミックレンジ(High Dynamic Range: HDR)画像の呈示装置とHDR画像を用いて心理物理学的に研究を行う.また,布地や木目,樹皮などの画像は適切な空間周波数情報を伴って呈示されないと正しい質感知覚が得られない.物体のスケールと画像サイズの比率を定める尺度[cycle/item]にも着目して研究を進める.
図1:輝度コントラストが同じ場合,輝度の最低値が低いと質感印象が強い.
図2:松の樹皮だが,サイズ情報が不足すると石垣にも見える.
D01-2 フラッシュラグ効果を用いた質感処理過程の同定
研究代表者:塩入 諭(東北大学 電気通信研究所 )
東北大学 電気通信研究所
塩入 諭
東北大学 電気通信研究所
松宮 一道
東北大学 電気通信研究所
Tseng, Chia huei
人間は多様な質感の知覚を通して、物体の表面や内部構造など多様な情報を得ている。しかし,質感とは何か,どのような知覚/認識を質感に含めるかについては共通の認識はない。質感が主観的には明暗などの初期視覚特徴と異なる知覚であるが,それを明確に示す客観的な根拠は十分とは言えない。質感処理が初期視覚処理の結果に基づくとして,初期視覚処理と質感処理を分離することは質感の脳処理を考える上で本質的な問題と言える。本研究では,フラッシュラグ効果を利用し、初期視覚特徴と質感関連特徴を分離する方法を開発し,質感の処理レベルについて明らかにすることを目的とする。
D01-3 ヒトの触質感はなぜ多彩なのか?~非線形触質感喚起モデル~
研究代表者:野々村 美宗(山形大学大学院)
山形大学大学院
野々村 美宗
旭川医科大学化学教室
眞山 博幸
ヒトはモノに触れると、「なめらか感」「しっとり感」などの触質感を感じる。われわれは、皮膚の表面で起こる摩擦現象の非線形性によって喚起される多彩な摩擦パターンが、繊細な触質感が発現する一つの原因であるという仮説を考え、『非線形触質感喚起モデル』となづけた。
本研究では、触質感と摩擦現象の関係を明らかにし、この仮説を検証する。具体的には、触運動を真似て正弦運動によって摩擦を行い、階層性と柔らかい粘弾性を持つ接触子が装着された触質感センシングシステムを開発、非線形摩擦現象をモデリングする。本研究で触質感が喚起されるメカニズムを説明する物理モデルを構築することで、質感認識機構が明らかになるだけでなく、触覚工学の社会実装が進むことが期待される。
D01-4 肌色空間の構築と肌質感認識のマッピングによる解析
研究代表者:溝上 陽子(千葉大学大学院 工学研究院)
千葉大学大学院 工学研究院
溝上 陽子
株式会社資生堂 ライフサイエンス研究センター
菊地 久美子
千葉大学大学院融合科学研究科
矢口 博久
千葉大学大学院融合科学研究科
方 昱
千葉大学 国際教養学部
徳永 留美
肌質感(色、シミ・ニキビ・ソバカス等のテクスチャ、くすみ感・つや感等)は、年齢、健康状態、顔印象等の重要な判断に関わる。色に関しては、従来の表色系での表色値と肌色知覚の乖離が報告されており、人間は肌特有の色分布に適応した知覚を持つことが示唆される。肌色知覚を正確に評価するには、肌色を構成する色素成分(メラニン、ヘモグロビン)を考慮した肌色空間が必要と考えられる。肌質感にもこれらの色素成分が寄与することから、肌色空間に肌質感認識もマッピングして表現できる可能性がある。本研究では、肌の色素沈着の分析と視感評価実験による肌の色とテクスチャが肌質感認識に及ぼす影響の定量化、肌色知覚を正確に評価するための肌色空間の構築、さらに肌質感画像の肌色空間へのマッピングに取り組む。肌色空間を定義できれば、既存の色空間では取り出せない色彩値と色知覚の関係を明らかにでき、肌質感認識の理解につながると考えられる。
D01-5 質感認知の異文化比較研究
研究代表者:高橋 康介(中京大学)
中京大学
高橋 康介
高橋さんは2017年6月に発足した新学術領域研究「顔・身体学」の計画研究代表に就任されてからはメンバー共々班友として多元質感知に参加頂いています
東京外国語大学 世界言語社会教育センター
大石 高典
帝京科学大学 生命環境学部アニマルサイエンス学科
島田 将喜
九州大学 持続可能な社会のための決断科学センター
錢 昆
「ものの質感の情報は、ものと環境と観察者の相互作用が生み出す感覚信号の複雑な変調のパタンの中に含まれる(西田)」--文化が異なれば環境は異なり、従って相互作用のあり方も異なる。質感認知がこれら相互作用の結果として生じるものならば、文化は質感認知の規定因となり得る。質感の情報及びその認知過程は生まれ育つ環境によらず人類共通であるのか、それとも視覚環境が我々の質感認知をはぐくむものなのか。本研究計画ではアフリカ・南米・ヨーロッパ・日本などの多地域間でヒトの質感認知特性を比較し、その通文化性及び文化依存性を検証するとともに、各地域での視覚環境を収集・解析して認知特性との関係を調べることで、生まれ育った地域や文化の視覚環境が質感認知にどの程度、どのように寄与しているのか解明する。
D01-6 身体や情動に訴えかけるセンシュアルな音響質感メディアの研究
研究代表者:仲谷 正史(慶應義塾大学 環境情報学部)
慶應義塾大学 環境情報学部
仲谷 正史
本研究は聴覚における質感について検討します。聴覚において質感をあたえる音響信号の1つとして、ASMR音源と呼ばれる刺激を利用します。ASMRとは、自発的に官能的な感覚をもたらす反応(Autonomous Sensory Meridian Response)と呼ばれる現象で、この音響信号を聴くと鳥肌が立つという生理応答が見られたり、「リラックスする」という主観評価がこれまでに報告されています。この現象は、音楽を聴取している際に生じる深い感動にも似ていますが、ASMR現象が音楽聴取の場合と同じメカニズムで生理応答や知覚を生じさせているのかどうかについては明らかでありません。このような現状を鑑み、本研究ではASMR音源を網羅的に集め、その音源の特徴を解析しながら、聴覚刺激がもたらす質感情報について検討を進めてゆきます。
D01-7 振幅変調の概念に基づいた聴知覚における質感認識メカニズムの理解
研究代表者:鵜木 祐史(北陸先端科学技術大学院大学)
北陸先端科学技術大学院大学
鵜木 祐史
ヒトが音環境を経て音源の質を評価する際,音環境の伝達特性を予測して知覚するのではなく,知覚に関係する物理量の変化を検知して,それに伴う質の変化を知覚しているはずである.室内音響学では,音声伝送指標と振幅変調との関係性を取り扱ってきたが,「音の質感」という概念を導入することで,物理的な振幅変調の変化と知覚される音の性質の変化とを統一的に説明できるのではないかと考えられる.本研究では,「振幅変調」の概念に基づき,音の質感だけでなく,それが耳に到達するまでに通った伝送経路の質感も認識するメカニズムを理解する.特に,①音の質感認識における「粗さ」に係わる物理量が何であるのか,②音の質感には音源だけでなく伝送系の質も関係しているのか,③ヒトは音源と伝送系を切り分けて質感認識を行っているかどうかについて検討を深める.
D01-8 おいしさをつくりだす神経細胞集団の同定
研究代表者:村田 航志(福井大学 医学部脳形態機能学領域)
福井大学 医学部脳形態機能学領域
村田 航志
おいしい食事は豊かな生活を送るうえで必須であるが、「おいしさ」は脳のどのような神経メカニズムでつくられるのだろうか。本研究ではおいしさを「食べたものへの嗜好性を獲得するときの脳内状態が作り出す質感」と定義し、マウスを用いた遺伝子工学および行動学のアプローチで、食べ物への嗜好性を獲得するときに活性化する神経細胞集団を同定する。また光遺伝学実験により、同定された神経細胞集団の活動操作が食べ物への嗜好性獲得に与える影響を評価する。さらに、同定された神経細胞集団に対して、味覚や嗅覚といった食べ物に由来する感覚情報がどのような神経経路をたどって伝えられるかをウイルス遺伝子工学を用いて神経解剖学的に明らかにする。以上の実験により、食べ物に由来する感覚情報からおいしさがつくられる神経メカニズムを包括的に理解する。
D01-9 高精度視覚質感記憶の心理学的基盤と神経機構の解明
研究代表者:齋木 潤(京都大学 人間・環境学研究科)
京都大学 人間・環境学研究科
齋木 潤
京都大学 人間・環境学研究科
山本 洋紀
京都大学 人間・環境学研究科
津田 裕之
京都大学 人間・環境学研究科
藤道 宗人
質感の詳細な知覚と、質感を表出の困難さの乖離を理解するには、これらを媒介する質感記憶の特性の解明が不可欠である。これまでの研究で得た、物体表面の光沢感の短期記憶が極めて精度が高いという知見に基づき、本研究では、光沢感の視覚性短期記憶の心理学的特性と神経基盤の解明を目指す。記憶精度の精密な測定により、(1) 記憶と知覚、(2) 光沢感記憶と視点情報記憶の比較、(3) 光沢感記憶と単純視覚属性記憶の比較を通して光沢感記憶の特殊性を浮き彫りにする。並行して、fMRI実験と多重ボクセルパターン解析から光沢感記憶情報が表現されている脳領域の同定を試みる。質感記憶の特殊性を足掛かりに、従来の記憶研究の定説とは異なる「記憶」、「知覚」概念の再検討も視野に入れる。また、質感記憶の検索や表出を支援する手法の開発による主観的質感情報の可視化技術の創出の手がかりを与えることも目指す。
2017年度(D01-9)
D01-10 細胞集団による質感情報の符号化、復号化、皮質表現
研究代表者:藤田 一郎(大阪大学大学院 生命機能研究科・脳情報通信融合研究センター)
大阪大学大学院 生命機能研究科・脳情報通信融合研究センター
藤田 一郎
大阪大学大学院生命機能研究科
稲垣 未来男
山梨大学総合研究部
池添 貢司
情報通信研究機構・脳情報通信融合研究センター
西本 伸志
物体はその材質に従い、固有の視覚的表面特徴(テクスチャ:手触り感や材質感)を持ち、視覚認識や視覚に基づく行動にとって重要な情報となっている。テクスチャの知覚に利用されている画像特徴量の処理は側頭葉経路で行われ、特に、その中段の視覚領野であるV4野の細胞がテクスチャ知覚において重要な役割を果たすことを示す証拠が蓄積しつつある。本研究では、V4野の細胞が集団として、ヒトやサルのテクスチャ知覚を支えるに足る十分な情報を伝えているかどうかを問う。また、これらの画像特徴量を処理する細胞のV4野内での分布様態を調べ、他の視覚属性を伝える細胞との相対位置関係を明らかにすることで、視覚属性間の相互作用を推定する。さらに、側頭葉経路の前段であるV1野、V2野に同様の解析を行い、この経路におけるテクスチャ情報の符号化と皮質表現の変換過程を明らかにする。これらの解析を通して、テクスチャ知覚の基盤となる情報処理過程の理解を進める。
D01-11 ワンショットBRDF計測と質感解析
研究代表者:長原 一 (大阪大学 データビリティフロンティア機構)
大阪大学 データビリティフロンティア機構
長原 一
本研究では,ライトフィールド(LF)カメラを用いたワンショットBRDF計測とその質感解析を目的とする.提案手法では物体表面による複数の反射光線の生成とLFカメラによるそれら光線の観測をモデル化する.実際のカメラから得られる計測画像と生成モデルで得られる画像の比較を行うことで,物体形状と反射特性であるBRDFを同時推定する.提案手法により未知形状の物体であっても,LF画像からBRDFを推定することが可能となる.また本手法により得られるBRDFと質感の関連を調べることで,質感の定量化や判別を可能にする手法を提案する.提案手法は,工学的な新規性や独創性のみならず,通常はラボ環境で計測時間のかかっていたBRDF計測の問題を解決し,簡便な方法によるBRDF計測を提供できることから,他の応用分野への貢献や波及効果が期待できる.
D01-12 多様な感覚による質感認知の発達初期過程
研究代表者:山口 真美(中央大学 文学部心理学専攻)
中央大学 文学部心理学専攻
山口 真美
山口さんは2017年6月に発足した新学術領域研究「顔・身体学」の領域代表に就任されてからはメンバー共々班友として多元質感知に参加頂いています
日本女子大学人間社会学部心理学科
金沢 創
東京大学・日本学術振興会
楊 嘉楽
鹿児島大学 学術研究院理工学域工学系情報生体システム工学専攻
山下 和香代
中央大学研究開発機構
氏家 悠太
中央大学 文学部心理学専攻
佐藤 夏月
中央大学大学院 文学部研究科
鶴見 周摩
ヒトは多様な感覚情報を統合し、現実の環境世界の中で様々な物体を認識する。このような感覚統合は、発達初期において、音表象から言語獲得にも影響しうると考えられる。このような感覚統合から言語獲得に至る、多感覚統合の発達過程を、言語獲得前後の乳児を対象に実験的に検討する。近赤外分光法(NIRS)を用いて、感覚統合の発達と音表象へと進む過程を、その脳内機能から検討する。また、現実のリアルな質感を持った素材に基づく「物体」において、多様な感覚が統合される発達過程を検討する。本研究により、多様な質感知覚の発達過程の検討と、言語獲得の発達までを見越した、質感知覚のメカニズムを解明する一端を担いたい。
D01-13 チンパンジーにおける質感知覚・認知の総合的研究:比較認知科学の観点から
研究代表者:伊村 知子(新潟国際情報大学)
新潟国際情報大学
伊村 知子
京都大学霊長類研究所
友永 雅己
ヒトはなぜ、 質感の違いを知覚 するようになったのか。このような問いに答えるためには、ヒトの質感知覚のメカニズムだけでなく、質感知覚がヒトに特有のものなのか、生物の生存や繁殖において何らかの機能を持っているのかについても考える必要がある。本研究では、 チンパンジーとヒトを対象に、生存にかかわる質感知覚の能力について比較する。具体的には、食物の質や状態を見分ける能力や、個体の性別や年齢、健康状態などの指標となる顔色や肌の質感の知覚、素材の質感知覚の能力について検討する。ヒトの質感知覚の特徴と、その進化的な基盤について比較認知科学の視点から明らかにする。
D01-14 触覚の質感を表現するオノマトペの神経基盤
研究代表者:北田 亮(Nanyang Technological University, シンガポール)
Nanyang Technological University, シンガポール
北田 亮
北田さんは2017年1月にシンガポールNanyang Technological Universityに異動されてからは、班友として多元質感知に参加頂いています
私たちは物体に触れることで、その質感を直に経験することができる。従来の心理物理学研究において触覚の素材感は、粗さや柔らかさ等の知覚単位で説明できるとされている。しかし実際に知覚する素材感は、多様でかつ複雑なため、知覚単位の量ではなく、「ふかふか」のようなオノマトペで直感的に表現される。現実に即した素材の触知覚メカニズムを理解するには、素材感とオノマトペの関係性を知る必要があるが、オノマトペを表象する神経基盤は未解明であり、触感とオノマトペの関係性を調べた脳科学研究は行われていない。この背景に基づき本研究は「脳は触れた素材の柔らかさをどのように解釈し、オノマトペとして表現するのか」について認知脳科学的に明らかにすることを目的とし、触覚の質感認知に関する認知脳科学的モデルの構築を目指す。
D01-15 液体粘性知覚の神経メカニズムの解明
研究代表者:眞田 尚久(関西医科大学)
関西医科大学
眞田 尚久
近年、視覚生理学研究分野では、素材や光沢感など物体の質感の脳内表現が調べられるようになってきている。腹側経路V4野やIT野における研究で、素材やテクスチャ、光沢感などの物体の質感に選択的に反応する細胞の報告がされたが (Okazawa et al. 2014, Nishio et al. 2011, 2014)、これらの質感情報処理の研究では静止画像が主に用いられてきた。質感知覚は、液体運動など動きの情報からも得ることができるが、視覚生理学の運動視研究は従来、ランダムドット運動などの単純な視覚刺激を用いて調べられてきており、液体運動の様な複雑運動がどのように表現されているのかはあまり研究されてこなかった。
本研究では、近年報告された液体粘性の知覚判断と相関する高次運動統計量(Kawabe et al. 2014, 2015)を視覚刺激生成に適用することで、液体粘性知覚が高次視覚領野でどのように表現されているかを明らかにする。
D01-16 新奇食品に対する感性的質感認知の解明 -食用昆虫を例として-
研究代表者:和田 有史(立命館大学 理工学部環境システム工学科)
立命館大学 理工学部環境システム工学科
和田 有史
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門
宮ノ下 明大
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門
早川 文代
日本大学危機管理学部
木村 敦
九州大学基幹教育院
山田 祐樹
文教大学人間科学部心理学科
増田 知尋
就実大学教育学部教育心理学科
岩佐 和典
我が国の多くの消費者は昆虫食の習慣がなく、昆虫をみるだけでも嫌悪感を抱く者も少なくない。その一方で、伝統的に昆虫食がなされる地域も存在す る。昆虫食の習慣がある場合には食用対象の昆虫は食品として認識され、画像を見ても嫌悪感は少ないと予測できる。つまり食習慣によって同じ食用昆虫画像を みたときに生じる感性的質感が著しく異なるはずだ。これまでの質感研究では、物理的質感認知を拡張して食品の鮮度の視知覚などは研究されてきたが、食品と して認識するかどうか、という食の感性的質感(好悪・美醜などの感情的な質感)における根本的な問題に対してアプローチはなかった。また、その感性的質感 が摂食経験に依存する場合は、摂食の前後で劇的に変化するだろう。そこで本研究は食用昆虫をモチーフとして食文化と実際の摂食経験による新奇食品に対する 感性的質感の変化を、潜在的態度と顕在的態度の両方向から解明することを目的とする。
D01-17 マーモセット大脳視覚皮質における光沢情報の処理過程
研究代表者:宮川 尚久(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所)
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所
宮川 尚久
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 微細構造研究部
理化学研究所 BSI 高次脳機能分子解析チーム 一戸紀孝班
一戸 紀孝
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 微細構造研究部
鈴木 航
これまでの研究で、小型霊長類マーモセットの側頭視覚皮質の領野FSTvには光沢物体画像に選択的な応答を示す神経細胞群が存在すること、またそこに強く投射する領野MTcには、表面光沢刺激に応答するものの、より低次元な画像特徴量で応答が説明される神経細胞群が存在することを見出した。 本研究では、①FSTvの光沢選択性がMTcから投射する入力に由来するか、②個体の光沢知覚がFSTvの活動に由来するか、③個体の光沢知覚がMTcからFSTvへの情報伝播に由来するか、の3点を検証する。 具体的には、①と③に関してはMTcからFSTvの光沢選択性小領域へ投射する神経線維の活動を、②に関してはFSTvの光沢選択性小領域の活動そのものを、光遺伝学や薬理学的な手法で抑制し、神経活動や個体の知覚に生じる影響を評価する。
D01-18 顔の質感情報の時間的コーディングの研究
研究代表者:菅生 康子(産業技術総合研究所)
産業技術総合研究所
菅生 康子
産業技術総合研究所
松本 有央
京都大学
河野 憲二
質感は、我々が外界の事物の状態を見分けるために重要な情報である。日常生活に存在する自然な物体についての質感認識の理解を目指し、社会生活に重要な「顔」の質感をコードする脳の仕組みを明らかにすることを目的とする。我々が顔を見るとき、肌や眼、髪などの質感情報から、年齢や体調などを推しはかることができる。また、眼、鼻、口などの形やそれら相互の距離など造作の形態情報から個体や表情を認知する。側頭皮質の顔応答性ニューロンの活動を調べ、質感情報のコードを、特にそのダイナミクスについて、個体や表情の情報と比較し、明らかにする。
D01-19 咀嚼筋電音フィードバックを用いた食質感知覚メカニズムの解明
研究代表者:藤崎 和香(産業技術総合研究所)
産業技術総合研究所
藤崎 和香
産業技術総合研究所
遠藤 博史
産業技術総合研究所
井野 秀一
質感知覚は様々な感覚から入力された情報を処理するだけでなく、予測、意思決定、身体制御、感覚運動フィードバックなどを含んだ、多感覚的、適応的、能動的なプロセスの結果として生じる。食質感知覚はこのようなプロセスを考えるうえで最適の題材である。それは食質感知覚には「食べる」という能動的な動作によってもたらされる感覚フィードバックの情報が大きく貢献しているからである。これまで咀嚼音をフィードバックして食質感を変容させる様々な研究が行われてきたが、フィードバックの時間ずれや、利用できる食品の物性上の制約が課題であった。我々は近年、咀嚼に完全に同期したフィードバック音を、あらゆる物性の食品について返すことができる画期的な手法を考案した。それは咀嚼音そのものではなく咀嚼時の咬筋の筋電波形を音に変換したものをフィードバックするという手法である。本研究ではこの手法を発展させた一連の研究により、多様な食質感を認識する人間の情報処理の仕組みを解明することを目的とする。
D02-1 錯触覚を利用したタッチパネル型多自由度標準触覚デバイス
研究代表者:嵯峨 智(熊本大学)
熊本大学
嵯峨 智
近年,スマートフォンの普及とともに触覚技術への期待が増大している.しかし未だ表示された仮想物体そのものに触れるインタラクションは,直感的とは言えないものに留まっている.これは触覚そのものが入力と出力を同時に備えた感覚にもかかわらず,入力装置としてのタッチパネルのみが普及していることに起因する.そこで我々はタッチパネル上での仮想物体との触覚フィードバックを伴う直感的かつインタラクティブな操作の実現を目指す.
本研究の目的は以下の二点である.第一には多電極ディスプレイによる触覚ディスプレイの多自由度化である.代表者らが提案してきた剪断力による凹凸感やテクスチャ感を提示可能な錯触覚ディスプレイを多自由度に拡張するため,静電気力を用いた多電極ディスプレイを構築する.第二は接触面積制御などによる柔らかさ表現,動的表現の実現である.これらの二つの方向への拡張により,接触の瞬間および接触後の柔らかさや形状表現などが可能な錯触覚ディスプレイの実現を目指す.
D02-2 光線制御型エネルギー投影手法による質感プロジェクション基盤技術の構築
研究代表者:小泉 直也(電気通信大学大学院 情報理工学研究科)
電気通信大学大学院 情報理工学研究科
小泉 直也
本研究の目的は,質感プロジェクタの実現に向けた光線制御型エネルギー投影手法の試験的実装を行うことである.コンピュータグラフィックスの中では,テクスチャマッピングによって質感を容易に書き換えることができる.このような方法を実世界で実現することができれば,物理世界と情報世界の融合を実現する有力な手法になる.そこで本研究では書き換え可能な実物体質感制御の実現を目指す.本提案の基本概念は,物体の表面に化学反応の生じる物質を塗布し,そこにエネルギーを投影して化学変化を生じさせることで,表面の繰り返し書き換えを実現するものである.
研究目的を達成するために,レーザーをエネルギ源として光学系によって反射・屈折させることで,対象に質感を投影できる手法を開発する.本研究ではこれまでの技術を発展させ,特に3Dプリンタで作成されたる立体物を対象に,質感の書き換えを繰り返し実施できる手法を実現する.
D02-3 高速ビジョン・プロジェクタに基づいた動的質感再現
研究代表者:渡辺 義浩(東京大学)
東京大学
渡辺 義浩
視点と物体と光源の配置を人間が能動的に変化させることで知覚される視覚情報は、質感の理解を深める上で重要な役割を担っている。しかし、このような動的に変化する視覚情報を、実世界上に自在に再現する技術の実現は難しかった。ボトルネックは、実世界や体性感覚と仮想的な再現情報の間で、時空間的整合性が崩れていることにある。本研究では、この限界を高速なセンシング・ディスプレイ技術によって打破する。具体的には、1,000fps・msオーダ遅延の超高速視覚センシングとプロジェクタ技術を基盤として、動的に変化する実世界と仮想質感を、人間の知覚レベルで完全に融合させるシステム技術を創出する。人間の知覚限界を超える高速な性能を駆使するとともに、無拘束・非接触の要請を満たしたシステム技術を構築することで、静的・準静的環境に制限されていた質感再現技術を次のレベルへ引き上げることを目指す。
D02-4 タッチパネルのためのPseudo-haptics生起手法の確立と質感設計への応用
研究代表者:鳴海 拓志(東京大学)
東京大学
鳴海 拓志
電気通信大学
広田 光一
本研究の目的は,指の運動にあわせてポインタではなく背景を運動させるという新しいアプローチから,視触覚間相互作用であるPseudo-hapticsを生起させることが可能な新規手法を確立し,タッチパネルでもPseudo-hapticsによって多様な触質感を提示可能にすることである.指で小さなポインタを操作するのではなく,背景等画面全体をスクロールさせる場合には,注意がタッチパネル画面全体に分散してずれが強く意識されなくなるために,タッチパネルにおいてもPseudo-hapticsを生起できるという新規現象の精緻化・モデル化に取り組み,タッチパネル操作の触質感をデザインするための手法を明らかにする.また,タッチパネルにおけるPseudo-haptics のコンテンツ応用手法の確立,触感変化を通じた注意誘導や情動喚起等の効果生起による体験・質感設計手法を明らかにする.
D02-5 引箔を施した西陣織を題材とした見かけのBRDF操作による革新的な質感編集の研究
研究代表者:天野 敏之(和歌山大学)
和歌山大学
天野 敏之
大阪工業大学
牛田 俊
京都大学
山本 豪志郎
我々が見ている物体の色彩は,物体その物の反射特性だけでなく,照明の色彩に影響される.それだけでなく,微細構造によって異方性の反射特性をもつ物体では,照明の入射方向によっても輝きや色彩が変化する.従って,照明の色彩や明度,照明方向を緻密に制御することにより,物体の見た目の色彩のみならず素材感などの質感を操作することができる.
本研究は引箔を施した西陣織の帯地を題材として,ライトフィールドの投影と撮影を行うフィードバック系によって,見かけのBRDFの操作する革新的なプロジェクションディスプレイ技術の実現を試みる.この目的を達成するために,まず,ライトフィールド投影と圧縮センシングを用いた動的なBRDF解析手法を確立する.その後,引箔の見かけのBRDF操作方法を完成させ,最後にこれらの研究成果を応用した質感表現技法を模索する.
D02-6 多波長・多方向光源による蛍光物体の質感編集
研究代表者:岡部 孝弘(九州工業大学)
九州工業大学
岡部 孝弘
本研究では,蛍光物体の質感編集技術の確立を目指す.蛍光物体は,光学的特性が入射光と反射光の方向だけでなく波長にも依存することから,独特の質感を有する.そこで本研究では,多波長・多方向光源装置により蛍光物体を様々な波長で様々な方向から照明して撮影した画像を活用して,イメージベーストモデリング(IBM)とイメージベーストレンダリング(IBR)の両方のアプローチで,蛍光物体の幾何学的・光学的モデルの獲得,および,任意照明環境における蛍光物体の写実的画像生成に取り組む.さらに,IBMにより獲得した蛍光物体の幾何学的・光学的モデルやIBRへの入力となる蛍光物体の画像そのものに基づいた"蛍光感"の編集技術を開発する.