西田 眞也(にしだ しんや)

複合領域

多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出

日本電信電話株式会社
NTTコミュニケーション科学基礎研究所・人間情報研究部・主幹研究員

西田 眞也(にしだ しんや)

本領域の目的

質感認識とは脳による物体の本性の解読である(キーワード参照)。人間は五感を通した多様な質感の知覚を通して、生存に不可欠な情報を得ている。質感認識は、環境の理解のみならず、価値判断に基づく行動の選択や身体運動の制御など、人間の基本的な機能において重要な役割を果たしている。多くの場合、質感を生み出す情報は複雑な高次元情報として感覚入力に埋め込まれている。それを読み解く素晴らしい人間の能力の解明は、人間の感覚情報処理の科学的理解のみならず、情報工学技術の発展にとっても不可欠な課題である。

「質感脳情報学」(平成21-25年度)は世界に先駆けて学際的な質感研究を築きあげてきた。本領域は、この流れを継承・発展させるべく、情報工学・心理物理学・脳神経科学の密接な連携によって、実世界の多様な質感を認識する人間の情報処理の計算原理や神経機構を解明する。さらに、質感認識の科学的理解に基づき、革新的な質感の再生・編集技術を生み出し、産業応用も視野に入れた学際的な質感研究領域を確立することを目指す。

本領域の内容

質感認識の科学的理解(仮説検証型A01質感メカニズム)(データ駆動型B01質感間イニング)革新的質感創成技術の開発(C01質感イノベーション)質感工学の構築
図1 本領域の研究体制

このような目標の達成のため、本領域では二つのアプローチを組み合わせて質感認識機構の科学的解明を進める。

研究項目A01では、仮説検証型のアプローチにより、質感認識の計算原理とその神経機構を解析する。物体の複雑な表面構造が生み出す光学的質感、音響的質感、質感が情動惹起する仕組みなどをおもな研究対象とする。

一方、研究項目B01では、データ駆動型アプローチにより人間の質感認識機構に迫る。深層学習などの統計的機械学習と脳情報解析技術を融合し、問題の多様化・複雑化にも対応可能な新しい質感研究パラダイムを確立する。さらに、この研究活動を実現するために、質感データベースの整備にも注力する。

研究項目C01では、質感認識の科学的研究の成果を、最先端のデジタルファブリケーション・触覚工学・コンピュータグラフィックスなどに結び付けることにより、革新的な質感創成技術を開発する。さらに、実世界の多様な質感の制御を可能とする知見を質感工学として体系化する。

期待される成果と意義

質感は人間の脳の機能解明にとっての大きなミッシングピースである。本領域の発展により、実世界の多様な質感の計算原理と、脳内の階層的な質感情報処理に対する科学的理解が飛躍的に進むことが期待される。

また、工学的には、人の能力に迫る質感認識システムが生み出され、視覚・触覚・聴覚におけるさまざまな質感の計測・再現・編集・管理技術の開発が進む。さらに、質感工学の体系化により、現場の技術者の勘に頼ってきたものづくりを学術的観点からサポートすることが可能となる。

キーワード

「質感」は日常的にさまざまな意味で用いられるが、本領域ではとくに、ものの物性(光沢感・透明感など)、材質(陶器・金属など)、状態(乾燥・凍結など)といった「物理的質感知覚」、そして美醜や好悪などの「感性的質感認知」の二つを質感認知の研究対象にしている。